12月の本『聖夜』
12月になると、書店や図書館でもクリスマスの絵本がディスプレイされ、華やかな一角となっています。
装丁もさまざまで、かわいらしいものから、美しく厳かな雰囲気のあるものまで。
「プレゼントにするなら?」と考えると悩みますね。
私が、「好きなクリスマスの絵本は?」と聞かれたら、たくさんたくさんあるなかで、
ディック・ブルーナのクリスマス絵本『クリスマスって なあに』と答えるでしょう。
クリスマスの本当の意味をやさしく伝える、毎年この時期に開きたくなる1冊です。
そして、もう1冊。
クリスマスというと、どうしてもこの本に辿りついてしまう、心に残る本を紹介します。
絵本ではなく、小説です。
『聖夜』
著者 佐藤 多佳子
出版社 文藝春秋
発行年 2010年12月
10年以上前に出版された本ですが、色褪せない物語です。
ミッション系の高校のオルガン部に属している高三の一哉は、奏者としての確かな実力、どこか人を寄せつけない雰囲気が、後輩から一目置かれている存在。
そんな一哉の心には、幼少の頃に家を去った母への思い、自分と正面から向き合わない牧師である父への反発がたまっている。
クリスマスコンサートでメシアンの難曲に挑むと決めた一哉の揺れる心情と、奏でるオルガンの音が響き合う物語。
チャペル、オルガン、賛美歌、物語の背景にはクリスマスの要素が散りばめられています。
随所に演奏されるバッハやメシアンといった音楽家の曲が、物語に神聖な空気をもたらしていて、さらにロックのスパイスまで入るので、音楽小説としても楽しめます。
一哉の父の存在も大きく、牧師としてのお説教じみた言葉でなく、父としての本当の胸のうちを明かすことを求める一哉に、父はどう向き合うのか。
青春小説という言葉ではおさまりきらない、おとなにも読んでほしい物語です。
この物語を読みながら、チャペルに響くオルガンの音色を想像し、聖夜を迎えていただけたらうれしいです。
Merry Christmas & Happy New Year ☆
snowy